第53回

 柳 行 李
八人兄弟の二男坊として生を享ける
家長制度のもとで
尋常小学校を卒業するとすぐに
信州の山奥から柳行李1つを持って都会に出てきた
新宿淀橋浄水場の近くに
仕立屋の丁稚奉公として住み込んだ
そこで人生において五つの大切なものを身につける
お金の大切さ、教育の大切さ、勤勉に働くことの大切さ
家庭の大切さ、都会の誘惑を断ち切る
何より規則正しい生活を
朝6時に朝食、昼正午に昼食、夕方6時に夕飯を決まってとった
それと毎朝ラジオ体操を日課にしていた
夕食を食べた後、夫婦二人でラジオを聴きながら遅くまで夜なべをしていた
地道に仕事をして信用を得た
二十歳で独立して、二十五までに家を購入して所帯を構えている
自分が十分な教育を受けられなかった分子供に夢を託した
隔世遺伝なのか孫が大学院に行き東大の研究室でロボットの研究をしていた
家族のために礎となって土台を築き、犠牲になることを甘んじて受け入れた
自分は墓を建て息子がビルを建てている
真面目にこつこつためたお金を無心に来る輩がいた
人間の本性、悲しい性(さが)を思い知った
唯一楽しみは山登りと、晩年夫婦で行った旅だった

山 一歩